曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

藍夫人と秦愫

曦臣が37歳の時点で(立場上強く求められていただろうに)
妻帯していなかったのはやはり両親青蘅君と藍夫人の結婚生活が
決して幸せなものとは思えなかったからだろう。
両親の経緯を「知りたくもない」と答える程には、
触れたくない好ましくないものと捉えていたのだろう。
母は父に攫われるようにして(その為に)罪を犯し
父は罪人の母を生かす為に婚姻し自らは閉関した。
父は母を愛するがゆえだったろうが母は父を愛していたのだろうか?
自分と忘機は母に愛されて生まれて来たのだろうか?
母の死は自分達を捨て自死を選ぶことで
自由を求めたのではないだろうか?
忘機の2歳上8歳になっていた曦臣には拭い去れない心の傷に
なっていたのではないだろうか。
曦臣が恋愛というものに無自覚あるいは
自ら封印していたように感じるのは、
父母の結婚生活を巡るトラウマがあっただろうからだと思う。
それが無ければ阿瑤と秦愫との結婚話に
何らかのリアクションがあったかもと思ってしまう。

 

藍夫人は雲深不知処に軟禁され8~9年?月一で子供に逢わせて貰い時々夫に
(無理矢理?)抱かれて。無理矢理じゃないな、
子供に逢わせて貰うのと引き換えのようにか、
務めのように、心を殺して諦めきって冷めきって。

秦愫は挙式前のただ一度のみ夫との交わりで、
自分で育てられたけれど3~4歳で我が子を亡くし
その後10年近く孤閨をかこち夫には偽られ続け
最期に真実を知らされ絶望の淵に堕とされた。より不幸なのは?


魔道祖師の女達のうち一二を争う地獄を味わった女性だろう。
男達に翻弄された生涯。救いと言えるかどうか判らないけれど、
藍夫人も秦愫も人生の最後は自分で幕引きを選んだのじゃないかと思うところ。
秦愫は阿瑤に操られて死んだのじゃなく自らの意思で誇りを守る為に
自死したのじゃないかと思っている

 

 

ざんげの値打ちもない


山﨑ハコさんが「ざんげの値打ちもない」を歌う映像を観た。
若い頃のイメージしかなかったけれど、年齢を重ねて、
けれど歌唱力は更に円熟味を増して、物凄い迫力で
あの「ざんげの値打ちもない」の世界を表現されていた。
幻の第4番の歌詞を初めて聴いた。
阿久悠さんが自ら山﨑ハコさんに歌って欲しいと請われたそうだ。

 

あれは何月、風の夜
とうに二十も過ぎた頃
鉄の格子の空を見て
月の姿がさみしくて
愛と云うのじゃないけれど
私は誰かが欲しかった

 

金光瑤は、懺悔などしないと思う。
自分の犯した罪を神や仏に赦しを請う、そういう人ではないと思う。
けれどこの4番の歌詞「とうに二十も過ぎた頃」ならば、
薛洋の処遇を巡って聶明玦に責められ金鱗台を蹴り落とされた夜ならば、
白月光たる曦臣さえも自分を照らしてはくれないのだと思い知らされた
あの夜(原作軸)ならば、
阿瑤は切実に誰かの愛を願ったのではないだろうか。

数限りない痛みや苦しみ恨みを心の奥底に秘めて、
数限りない悪事に手を染めて、誰にも真の姿を隠し続けて生きて来た彼が、
最期に自分は生涯罪を重ね続けてきたけれど
「あなただけは害そうと思わなかった。それだけは信じて欲しい」
それこそが阿瑤の祈りだったのだと思う。

『ざんげの値打ちもないけれど
私は話してみたかった』

 

 

薛洋と懷桑

「陳情令」義城で薛洋は、魏無羨に
『迫真の演技をする騙し上手な友達がいる。』と語った。
この友達とは当然「悪友」たる金光瑤だと思うけれど、
物語上最高に演技が上手かった聶懷桑を指すのだという意見もある。

確かに打倒金光瑤を目指す聶懷桑にとって魏無羨を復活させる事は、
暁星塵を蘇らせる為に長年試行錯誤する薛洋にとって、
魏無羨復活は最後の手段として利害が一致したのかもしれない。

けれど兄聶明玦の死に関わった薛洋を
聶懷桑が「友」などと扱う訳はなかろうし、
薛洋の方からも聶懷桑は、
単なる協力者に過ぎなかったのではないだろうか。
「悪友」の中で、薛洋は、金家で金夫人から虐待を受けるなど
劣悪な処遇を受けている金光瑤に「俺が代わりにやってやろうか?」と
声を掛けている。これこそ「友人」だ。

観音廟、金光瑤が最期に、「父を殺し、兄を殺し、妻を殺し、
子を殺し、師をを殺し、友を殺し、世の中で
悪事と呼ばれることはすべてやってきた!」と言い放った
「友」とは、薛洋に違いない。
薛洋の一生は、悪に塗れた悲惨な人生ではあったけれど、
金光瑤との交友そして、何としてでも取り戻したいと願った
義城での温もりのひとときを持てたことは、
唯一の光だったのかなあと思う。

 

 

金光瑤の生涯を終わらせた男

この前書いた時系列は金光瑤中心で、
現代「莫玄羽が献舎の術で魏無羨を蘇らせた」まで書いたけれど、
「魔道祖師」物語のマニュピレーター聶懐桑軸で考えてみた。
まずこの莫家で魏無羨が蘇る前に聶懐桑は、
莫家での莫玄羽の境遇を知り、
色々聞き出しまた報復の手立ての相談に乗る形で
魏無羨への献舎を薦めたのではないかと考える。
それ以前のある時期に、金光瑤に軟禁されていた思思の身柄を確保。
秦愫と金光瑤の異母兄妹の事実を知る楽凌秦氏の侍女碧草の存在を把握。
傀儡とされていた温寧を捕捉。
(大梵山で食魂天女に遭遇した忘羨の前に温寧を放ったのは、
懐桑だと思う。)
「左手」を入手。

魏無羨復活

藍思追と藍景儀が流浪屍退治に訪れていた莫家に「左手」を投げ込む。


忘羨に清河行路山石造りの砦へ誘導。謎の両足を見つけさせる。
胴体回収。

少年組を義城へ誘導。
謎の右手が発見される。

聶明玦の死に金光瑤への疑惑を抱いた忘羨が金鱗台へ
懐桑は、宴で酔い潰れ金光瑤に時間稼ぎをする間に
碧草が秦愫への手紙を届ける

 

蓮花塢で仙門百家の前で思思と碧草に証言させる
(碧草の手首に翡翠の高価な腕輪)
議場で金光瑤討伐へと巧みに誘導


蘇涉にわざと捕まり観音廟の舞台へ
そして一瞬訪れた好機を見逃さず、
長年の仇を討った。
最後に手にしたのは、
仇敵が愛用していた布製の帽子。
(自らの手は汚さないと自負していた懐柔に
仇の流した血が残った。)これは「陳情令」だった。


こう纏めてみるとあらためて懐桑って凄い!

 

 

阿瑤中心魔道祖師時系列

 

 

20年前   孟瑶15歳 金子軒15歳の誕祭の日に金鱗台へ行き
      大階段から蹴り落とされる

      魏嬰15歳
      忘機15歳 姑蘇座学で出逢う


17年前   雲深不知処襲撃され逃げ延びた藍曦臣(20歳)を孟瑶(18歳)が救う

      魏嬰18歳
      忘機18歳 屠稑玄武を倒す

      射日の征戦始まる

      孟瑶、聶氏に入り明玦に見出され副官になる。
      曦臣と再会し曦臣の薦めで明玦から金氏への紹介状を書いて貰う
      上官に手柄を奪われ続け遂に殺害する現場を明玦に見つかり
      激しく叱責され狂言自殺の末に明玦を刺して逃亡
      その後2年近く温氏へ潜入
      
      孟瑶、温氏潜入期間に秦愫と出逢う

15年前   孟瑶(20)、温氏に捕えられた明玦を嬲る 
      孟瑶、温若寒を討ち射日の征戦が終わる
      孟瑶、金氏に迎えられ金光瑤の名を与えられ、斂芳尊の号を得る。
      明玦の赤鋒尊、曦臣の沢蕪君と共に義兄弟の契りを結び三尊と謳われた
      蘭陵金氏で花見の宴
      百鳳山で巻狩
      魏嬰(20)乱葬崗へ

14年前   金凌誕生
      金子軒(20)死亡 血の不夜天 江厭離(2)死亡

13年前   藍忘機(23)戒鞭を受け3年療養
      魏嬰(23) 死亡

12年前   金光善、莫玄羽(14)を迎える

      常氏を滅亡させた薛洋(16)を暁星塵(17)が捕え金鱗台へ
      金光善は薛洋に陰虎符を修復させようと目論むも
      聶明玦は金光瑤に薛洋の処刑を強く迫り激昂した
      明玦が金光瑤を金鱗台大階段から蹴落とす
      金光瑤は藍曦臣に習っていた清心音に乱魄抄を混ぜ
      聶明玦の謀殺を謀った
      聶明玦死亡

      このあたりで金光瑤と秦愫の結婚?

11年前   

      金光善死亡(金光瑤は父光善を見限り、薛洋に手伝わせ、
                     光善に相応しい死を与えた)

                   金光瑤(25)仙督になる
      金光瑤、薛洋を殺そうとする

7~8年前? 阿松死亡  

3年程前  金光瑤(32)、莫玄羽を金鱗台から追い出す

現代    魏無羨が莫玄羽(27)による献舎の術で蘇る

 

 

聶明玦の年齢がはっきりしない。懐柔が阿瑤達の一つ下だから

孟瑶18歳、聶明玦22歳くらいで出逢っている筈。

百度百科によると明玦は懐柔の5歳上になってた)

 

修正必要

 

 

朔月と恨生

Twitter(X)で呟いたものに補足。
陳情令ドラマでは、胸に朔月突き刺したまま棺へ駆けて行ったが、
原作では、最期を迎える前に朔月は振り落として逝った。
だから原作軸では曦臣の元に朔月は帰って来た筈だけれど、
曦臣は朔月を手にする事を怖れたのではと思う。
阿瑤を刺し貫いた感触、阿瑤が刺した自分に激昂して我が身を深く抉った感触、
曦臣にとって凄まじい体験だったろう。
トラウマ級の衝撃だったろう。
朔月を目にすることも怖かったのではと思う。
けれど他の誰にも委ねることなど出来ず、阿瑤の血を拭い清め、
何度も剣の手入れをしながらただ独り静かに涙を流すのだろうなあ。

恨生はどうなったか?観音廟に残っていた?
最初阿瑤を拘束した時に恨生も取り上げた筈。
観音廟崩壊後に回収されたか。
私は曦臣が秘かに自室に持ちたかったのではと思う。
長年阿瑤が身に纏っていた軟剣、阿瑤の全てを知っていた剣。
曦臣は恨生を手にして何を想うのだろう。


太陽。太陽のひかり。という意味を持つ「曦」。
その曦臣が手にするのは、朔の時の月。新月。という「朔月」
私は、曦瑤と朔月を思う時いつも、
宮本浩次の「冬の花」の一節、
”あなたは太陽 わたしは月
光と闇が交じり合わぬように”

が浮かぶ。

社会を恨み人を恨み自分自身をも恨み憎み続けた阿瑤が
その半生を共にした剣、恨生。
朔月と恨生はまるで真逆のように見えて、
その対極にあるからこそ強く惹かれ合い耀いたのではなかろうか。

 

 

 

阿瑤は、母孟詩をどう思っていたか。

前に「卑しい生まれ卑しい育ち」という言葉について書いたことがあるけれど、
阿瑤は、娼婦・妓女を卑しい職業だとは思っていなかったろうと私は、思う。
娼婦が産んだ子供であることを卑しい産まれ、
娼館で育った事を卑しい育ちというならば、
娼館を利用し女達を自分の性欲の為に消費し、娼婦に子供を産ませ
碌に金も渡さない男を下劣と言わずしてどうするのだ。
権力・財力を持つ男達に阿り弱い立場の女子供を貶め
「卑しい生まれ卑しい育ち」と蔑む者達の心根こそが「卑しい」のだと
私は、思っている。
だから阿瑤が「妓女の子」と呼ばれて怒るのは、
決して母孟詩が妓女だったことを恥じているからではなく、
廻りが阿瑤を非難する時に阿瑤自身ではなく母孟詩を侮辱していたからだと思う。
父光善がいつか迎えに来てくれた時に恥じないように、
立派な教育を受けさせたい(まがい物を掴まされて大金を喪ってしまったけれど)
という思いから、孟詩は阿瑤にありったけの愛情を注いだ。
「君子正衣冠」
「金光善に迎えられる」
その願いは、阿瑤にとって重すぎる枷になってしまったけれど、
きっと阿瑤は、母のその願いは、幸薄い女人の儚い夢だと認識していただろうけれど、
生涯掛けて母の夢を実現しようと挑戦し続けた。
後年阿瑤は、育った青楼を燃やしたけれど、
自分が青楼育ちだという過去を消去しようとしたのではなく、
孟詩母子を虐げた人々への復讐だったろうと思う。
母孟詩をこれ以上「妓女」と蔑ませさせない、
青楼跡地に母の顔に似せた観音を祀ることで人々に母を崇めさせたい、
母の生前の屈辱を少しでも晴らさせたい、そういう気持ちがあったのでは、と思う。