曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

金光瑶と(献舎前の)莫玄羽

何故莫玄羽は、金光瑶への復讐を望み、自分の命を懸けてまで、
魏無羨へ献舎したのか、
ドラマ上では、かなり曖昧な説明だったように思う。
原作では、観音廟事件直後に境内で、魏無羨が聶懐桑へ、
聂明玦謀殺事件の復讐を計画し、莫玄羽を魏無羨へ献舎させるべく
仕向けた張本人なのだろうと詰問する場面がある。

まず兄聂明玦が金光瑶に謀殺されたことを知った聶懐桑は、
何年もかけ、兄の左手を見つけ出す。
事件の全貌を解明し、既に仙督の地位にある金光瑶を完全に仕留める為には、
魏無羨を復活させるしかない。聶懐桑は、どうやって魏無羨の魂を
見つけ出せたのだろうか。
次に金家から追放され失意の底にいる莫玄羽を見つけ出し、
その莫玄羽の言葉から、聶懐桑は、
彼が古代の悪の呪文を記録した金光瑶の禁断の断片を見たことを知る。
秘密を知られた金光瑶は、ドラマ上では、莫玄羽が秦愫へ付きまとった
という名目で、原作では、断袖の癖がある莫玄羽が
金光瑶へ怪しからぬふるまいをしたという名目で、追放する。
万一彼が秘密を口にしようとも決して周囲が莫玄羽のいう事を
信じないようにしたのだろう。
ここから邪な視点で考える。
莫玄羽が14歳(ドラマ13歳)の時、金家に招いたのは、父光善だった。
金光瑶は、この異母弟の出現にどう反応したろう。
どれ程願っても母孟詩の存命中、父が自分達母子を顧みることは無かった。
母の死後、14(15歳へ訂正)で父の許に証拠の品を持って名乗り出た時も、
大階段を蹴落とされ、その後手柄を立てようやく金家の一員と
なることが出来たが、待遇は、酷いものだった。
それに引き換え莫玄羽は、母が庶子とはいえ金持ちの家だったから、
子として迎え入れられた。嫉妬も覚えたろう。反感もあったろう。
鬱屈した感情を覚えたろう。
それが何故、秘密の隠し場所への出入りを許してしまったのだろう。
莫玄羽の母の願いも虚しく、彼の霊力は低く修行の効果も上がらなかった。
金光瑶は、婚外の子、持って生まれた霊力の低さという、己も持つ
苦しみに共感したのではないだろうか。
自分の敵ではないものに対しては、基本的に金光瑶は優しい。
金光瑶は、莫玄羽を懐かせ、信頼させ、依存させることで、
仄暗い喜びを感じていたのではないかと思う。
そうこうするうち莫玄羽は、金光瑶の決して知られてはならない秘密を知ってしまう。
何故光瑶は、彼の命を奪わなかったのだろう。
恐れることなどない、そう油断もあったろうが、
よく似た境遇の彼に対する同情もあったのだと思いたい。
しかし命ばかりは奪わないという光瑶の情けは、かえってあだとなる。
金家から送り返されたことで莫玄羽の母は、失意のうちに死に、
莫玄羽は、伯母家族に虐げられ、狂人と化して行った。
その境遇に落とし込んだ金光瑶を恨み、憎むようになっていたのだろう。

そこを聶懐桑に上手く利用された。
何故、莫玄羽は、献舎してまで金光瑶へ復讐を望んだのだろうか。
生きることに絶望した莫玄羽が莫家の三人を呪ったのは、判る。
けれど、一時は心から敬愛していた筈の金光瑶を何故?
莫玄羽は、金光瑶の地獄を知ってしまったからだと私は、思う。
この世を生きる苦しみから去りましょう。自分も死ぬから、
あなたも死んで楽になって。
そういう怖ろしくも哀しい願いもあっただったのだろうと考える。
ひとつの愛の形ではないだろうか。

光瑶が聶家に仕えていた頃から兄の死の真相を知るまでずっと、
聶懐桑は、光瑶を自分に近しい者と信頼していた筈だ。
だからこそ親愛の情が強い憎しみへと変貌する。
莫玄羽にとっても光瑶は、ただの憧れだけでなく、愛の対象としてさえ、
大きな存在だったろう。それが強い憎悪も覚えるようになって仕舞った。
金光瑶は、人の生を恨み憎み、己の生をも憎み恨み、その力で力を蓄え、
そうやって生きてきた人間だった。
その人生が己の所業の所為とは言え、「愛」と「憎しみ」によって、
止めを刺される。
金光瑶と莫玄羽の異母兄弟の関係は、あまりにも痛ましく哀しい。
そして聂明玦と聶懐桑も異母兄弟という設定だそうだ。
私は、これまで自分の手を汚さずに、蘇渉や金光瑶を討ち果たした
聶懐桑に対して少し納得できない想いを覚えていた。
けれど復讐を完全に成し遂げる為に長い間、
策略を巡らし続けた彼もまた、苦しく哀しい人生だったのだろうと
思い始めた。
ドラマ「陳情令」の登場人物たちそれぞれにドラマがあって、
色々考えさせられるところが本当に凄いと思う。

ちなみに、私が思う「陳情令」一番の悪は、金光善だ。
諸悪の根源だ。評価するところが全くないのは珍しい。
金子軒が生まれたことが奇跡だ。
続いての悪は、仙門百家だ。
権力におもねり、己らが正義とばかりに、正しい判断もなく、
付和雷同する。とても不快だ。
藍曦臣が「不由」で憂えている「世间百态」とは、
これのことかと思う。