曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

登場人物それぞれの過ち

「陳情令」「魔道祖師」は勧善懲悪の物語では無い。

全て完璧に「正」であった人は、いない。
「陳情令」の方は、金光瑤一人に悪の責任を負わせ過ぎな面があるけれ

ど原作の方では、主要登場人物それぞれに少なからず

「過ち」というものがあると私は、思う。

まず魏嬰

20年前の登場時から魏嬰は、人並み外れた知力と技量を持った天才児だった。
幼くして両親を亡くし江楓眠に迎えられるまでは、苦労もした。
けれど江厭離、江澄とは兄弟のように育てられ、正義感の強い、
しかし己の力を過信する部分があったと思う。
温家残党への弾圧に反対した時、もう少し江家、藍家への配慮が出来ていれば、
そして藍忘機を信頼し頼ることが出来ていれば、
事態はあそこまで悪化しなかったのではなかろうか。
「陳情令」の方では、金光瑤の企みだったという事にされていたが、
原作では、金子軒の死は、魏嬰の力の暴走によるものだった。
莫玄羽の献舎によって蘇った後は、莫玄羽自身の身体が虚弱だったこともあり、
己の力の限界を悟り、藍忘機に身を委ねる強さが持てたのだと思う。

次に忘機

藍家の厳重な家訓に純粋培養された堅物が自由奔放な魏嬰と出会い、
新しい世界に目覚めていく。
「弱きを助け強きを挫く」その理想を追い求める魏嬰に共感しつつ、
奇道に染まっていく魏嬰を心配し後を追う。
けれど今ひとつ言葉が足らなかったのか、家訓に背く決断が遅かったのか、
魏嬰の死を防ぐ事が出来なかった。
魏嬰を救おうとして藍氏の仙士多数に重傷を負わせる事件を起こしてしまう。

だからこそ魏嬰が莫玄羽の身体で蘇って再び巡り会った後は、

「魏嬰を信じ抜く」「絶対守るマン」を徹底した。愛を隠さなかった。

江澄

温氏の襲撃で江楓眠、虞紫鴛、両親を惨殺され、

蓮花塢を無残な姿に変えられた恨みが強過ぎたのだろう。

温情への淡い慕情を抱きつつも、救おうとするのは、
温情と温寧の姉弟だけ。温家残党を命がけで救おうとする魏嬰を理解出来ない。
あの若さで江家宗主を継ぎ、仙家を再建しようとする重圧が、
あの時江澄を頑なにしていた。

聶明玦

若くして聶家宗主を受け継ぎ、剛直で生一本、己の正義を貫く男。
刀霊に蝕まれ寿命が短い事を自覚してそれでも弟懐桑を守りたいと望んでいる。
昔、孟瑤を取り立てて副使にしたこともある。
偏見に晒され続けた孟瑤がどれ程苦しんだか知っていた筈だが、
ドラマでは頭領、原作では金氏の仙士を孟瑤が殺した事で、信頼を失う。
「孟瑤の性根を叩き直すのは自分しかいない」とばかり、
全て疑惑の厳しい目で見てしまい、金麟台の大階段で
「妓女の子」と罵り大階段を蹴り落とすという、孟瑤にとって
最大最悪のトラウマを抉ってしまう。

薛洋

過ちというより純粋な悪。けれど彼の人生は、過酷な境遇から来ている。
幼くして常氏に左手の小指を潰されなければ、

常氏を惨殺して暁星塵に出逢うことも無かった。
捉えられた恨みから宋嵐の目を奪い、

暁星塵が宋嵐に目を与え盲目と為ることも無かった。
暁星塵が盲目でなければ瀕死状態の薛 洋を救って義城で共に暮らすことも無かった。
薛洋にとって初めて人から与えられた暖かさは、薛洋にとって唯一の宝となった。
執着してそれを自分だけの物にしたくて暁星塵を騙して殺戮をさせる。
真相を知った暁星塵が自刃した後、彼を蘇らせようと薛洋は、長い歳月を費やす。

暁星塵

彼の過ちは、何だろう。余りに純粋過ぎた事だろうか。
彼の過ちは、薛洋が言ったように山を下りた事かも知れない。

宋嵐

薛洋に目を抉られ学んだ白雪関を滅亡させられた事で暁星塵と
言い争ってしまい、暁星塵が自分に目を与えた事を最初把握出来ていなかった。
暁星塵と生きて和解できなかった事を悔やむ。

蘇渉

姑蘇藍氏の子弟だったが後に後足で砂を掛けるような形で独立。
コンプレックスが嵩じて藍忘機を強く恨む。名を覚えていてくれたという一点で
金光瑤を強く慕い最期まで忠誠を尽くした。

原作では、 金子勲 への千瘡百孔の呪いは、
蘇渉個人での恨みからであり金光瑤は関与していない。

莫玄羽

「陳情令」では、金光瑤の夫人秦愫へ原作では金光瑤へ懸想して金麟台を
追い出されたと為っているが実際は、金光瑤の何らかの秘密を知って仕舞ったが故に
放逐されたのだろう。莫家に戻されてからの悲惨な境遇から、莫家叔母家族への
復讐を望んで魏嬰への献舎に至るのだが、彼の生涯が余りに痛まし過ぎて堪らない。
彼の献舎が無ければ真相究明が叶わなかったのだけれど。

聶懐桑

物語前半部分での聶懐桑の過ちは、兄明玦に全てを頼りすぎ、芸術面だけに心を砕き、
武芸や勉学や聶家運営などに励まなかった事。
明玦と阿瑤の状況を認識出来ていなかった事。
真相を知った後の懐桑は、綿密に計画を練り、一歩一歩着実に、
仇である阿瑤を追い詰めたけれど、罪の無い人間を犠牲にした。
莫玄羽への自殺教唆とも言える行いは、彼の心を苦しめたのではなかろうか。

孟瑤・金光瑤

「多恨生」で「生まれたことが過ちなのか」と歌われる位に、過ちに満ちた人生。
一番の過ちは、「父光善に認められる事」を最優先課題にしたことだろうと思う。
母の呪縛が大きかったというのもあるだろうが「金家での栄達」を願わなければ、
原作での金家仙士殺害も起こらなかったろうし、「金光瑤」の名を貰った後に、
光善の命で様々な悪事を働かなかったろう。
次いでは、藍曦臣を余りにも神聖視したことだろう。
温家残党虐殺の直前、阿瑤が曦臣に「私は悪ですか?」と尋ねる場面があった。
あの時阿瑤は、曦臣にとっては少しの曇りも許されないのだ。

己の汚点は隠し通さなければいけないと心に定めたのだと思う。

その後、阿瑤は、曦臣の前で理想の自分を演じ続ける事になったのだ。


藍曦臣

「陳情令」「魔道祖師」物語の最期で最大のダメージを負ったのは、

この人だろうと思っている。
藍家宗主として何千もの家訓を疑いも無く己を律し清く正しく生きてきた筈の
この藍曦臣の世界は、金光瑤の悪事が暴露され、

己自身の手で光瑤の胸を刺し、
観音殿の崩壊と共に曦臣の世界は、崩れ去った。
感情を抑制して生きてきただけにより一層観音殿で阿瑤から受けた感情の爆発、
出逢ってからの長い間、自分が阿瑤を守って来たのだと自負していた筈が、
実際には自分の方が阿瑤に深く依存していたのではないかという驚愕、怖れ。
曦臣は、「阿瑤が判らない」と言ったけれど、
曦臣が信じられなくなったのは、自分自身だと思う。

けれど、観音廟事件以後、生き残っている人間には、今がある。
魏嬰、忘機、江澄は、勿論だ。
聶懐桑も前を向いて生きて欲しい。
藍曦臣も、阿瑤の生涯を最初から振り返って考えてやって欲しい。
阿瑤が生きた意味、彼が望んだ理想は何だったのかを考えてやって欲しい。