曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

聂明玦と金光瑶

金光瑶は、何故、赤鋒尊聂明玦を殺害するに至ったか、
これは、本当に一筋縄でいかない問題だと思う。
孟瑶が聂家に仕えていた時、出自の所為で
同僚たちに蔑まれていた彼を庇い、副官にまで
取り立ててくれた宗主聂明玦を慕い忠誠を
誓っていた筈だ。
聂明玦も孟瑶の勤勉さ、有能さを高く評価して、
期待を寄せていたに違いない。
それが孟瑶の自分を苛め抜いていた兵長
殺害する現場を目撃して、激高してしまう。
孟瑶を信頼し期待していた分、裏切られたという思いが強かったのだ。
ちょうどそこへ聂明玦を襲おうとした温逐流が現れ、
孟瑶は、身を挺して聂明玦を庇って刺される。
この身を挺したという一点を持って、
孟瑶は、聂明玦からの死の制裁を免れ、追放されるのだけれど、
この時、聂明玦は、泣いているのだ。
泣いて馬謖を斬る』ではないが、これは、
聂明玦の孟瑶への愛だったと思う。
一本気で悪を憎む心がことさら強く、妖剣霸下を手にし、
荒ぶる心を抑えきれない愛を
弱く脆い孟瑶は、気づくことが出来なかった。
ただ自分が見放された、拒絶されたのだと、
それまでの敬愛と信頼の念が怖れと失望へと変わってしまった。
悲劇の始まりだ。
その後孟瑶は、温家に潜入し、
温若寒の副官に為るほどまで重用されるが、
単身攻め込んできた聂明玦と対峙した孟瑶は、
邪悪な笑みを浮かべる。
温若寒を信用させる為というには、あまりにも本来の表情のように見えた。
温家征伐が成功した後、解放された聂明玦に
孟瑶はすんでのところで斬られそうになる。
そこを救ったのが藍曦臣だ。
温若寒を刺し殺したという功績で金家に迎えられ、
聂明玦赤鋒尊、藍曦臣沢蕪君、金光瑶斂芳尊として義兄弟の契りを結んだ時も、
聂明玦の金光瑶を見る目は、厳しく、
金光瑶自身も聂明玦を警戒しているようだった。
二人の心のずれは次第に大きくなっていく。
金家での地位を確立する為、己の野望を遂げる為、
聂明玦の存在は、金光瑶にとって、排除すべきものへと変わる。
聂明玦の気を静めるという名目で藍曦臣から「清心音」を習い、
更には、通行証を預かり自由に雲深不知処へ出入りを
許された特権を使い、禁断の邪道「乱魄抄」を盗み出し、
巧妙に聂明玦を蝕んでいく。
自分の「白月光」である二哥藍曦臣を騙し、
大哥聂明玦を誅殺する、やり口が非常にえぐい。
対決の場面が、金麟台のあの長階段の上。
薛洋への処遇を咎められた金光瑶が
珍しく怒気顕わに反論する。
「所詮、娼妓の子。」と聂明玦は、光瑶を大階段から蹴落とす。
額から血を流す光瑶が衣服を直し帽子を正しく直し、
笑みを浮かべるあのシーン、私はあの場面で金光瑶に嵌まった。
聂明玦と金光瑶のこの二人の生きざまは、
まさしく愛と憎しみの極みのように感じた。

生まれ堕ちたのが娼館で母の容色が衰え更に病気がちに為って以降、
母子の生活を支えるには、まだ少年の孟瑶が男達に
身を任せるしかなかった筈だ。
その屈辱と痛みは、惨めな暮らしから這い上がる為の
権力と地位を求める原動力になったろう。
類まれな美貌は、己の身体を武器に変えるのに充分だったろう。
聂家の男の宿命として、剣の邪気を受け暴走してしまう、
あまりに実直過ぎる男、そして生まれ持った宿命ゆえ、
愛と憎しみを我身に引き寄せてしまう男、
二人の男の生きざまは、美しく哀しい。