曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

金光瑶の人生を考える その三(聂明玦編)


何が彼をそうさせたか 
金光瑶の人生を考える その三(聂明玦編)

聂明玦と金光瑶の悲劇を考えていて、ふと思ったのは、
金光瑶の聂明玦への想いというものは、
聂明玦に父への愛を重ねていたのじゃないかという事だった。
聂明玦が同僚たちに虐められていた孟瑶を救って副将に取り立ててくれた時、
どれ程孟瑶は嬉しかったろう。
初めて大人に認められたと感じたろう。
この時の聂明玦は二十歳を少し出たくらいだろうか。
父というにはあまりに若いが、それでも孟瑶から見れば、
非常に体も大きく威厳があり、頼もしい大人の男性と映った筈だ。
今まで自分が見知って来た下卑た男達とは、雲泥の存在として。
そういう人に愛され守られたいと願ったのではなかろうか。
期待をかけて信頼を寄せてくれた事を誇らしく頼もしく感じたろう。
宗主に重用されればされるほど、周囲の反感と嫉妬を掻き立てる。
孟瑶にそれらを跳ね除ける強さがあれば良かったのに。

孟瑶は、ただ微笑みの仮面をつけ、憎しみを募らせてしまう。
温逐流の襲撃の際、薛洋を逃がすどさくさに紛れて、
孟瑶は、かの憎き総領を殺してしまうが、
この時の彼には、聂明玦ならきっと自分を許してくれるという、
無条件で受け入れてくれるという、
過度の期待、甘えがあったのだろうと思う。
悪を憎む聂明玦が許す筈などないのに。
勝手に聂明玦へ父性あるいは肉親に匹敵するほどの愛を求め、
得られないと判ると、それまでに抱いていた愛情の大きさ、いやそれ以上に恨み憎む。
孟瑶は、人に認められたいと望み続けてきた。
愛を求め、憎しみを糧として生きてきた。
自分自身を愛さないものが愛を得られる筈はないのに。
聂明玦は、孟瑶の望んだ種類では無かったが、
確かに孟瑶を愛していたろう。
孟瑶を追放した後も動向を気にしていた。
彼の強すぎる出世欲や心の脆さを案じていた。
道を踏み外さないようにと願っていた。
けれどその愛は、後に金光瑶となり、義兄弟の契りを結んだ後さえ、
自分に厳しい言葉を与え、栄光への道を阻む障害としか、
金光瑶には、届かなかった。
この二人の行き違いが本当に痛ましい。
金光瑶の聂明玦への想いは、藍曦臣への想いとは全く異なる。
金光瑶にとって藍曦臣は、決して侵すことの出来ない聖域だった。
だから光瑶は、藍曦臣の前では、決して己の悪を悟らせなかった。
理想の自分を必死に生きた。
人生最後の場面で言い切った。
「悪の限りを尽くそうとも、あなたを害そうとは決して思わなかった。」と。
それが光瑶の藍曦臣への愛だった。
片や、己の本性を全て知られている聂明玦へは、本当は、
ありのままの自分を受け入れて欲しかったのだろう。
決して叶えられる筈の無い望みと判っていても尚、
光瑶は、それを求め続けてしまった。
生きて得られぬなら殺して自分だけのものにして仕舞いたい、
光瑶の心のうちには、そのような感情もあったのだと思う。
縛り付けて制御できぬと知ると冷酷に「殺して」と薛洋へ告げる。
この時の金光瑶の美しさは、凄まじい。
愛と憎しみのベクトル。その身体に
憎しみの剣を纏う金光瑶の姿は、気高いとさえ思えた。
メイキング画像にあった、聂明玦の傍らに腰掛け、
そっと聂明玦の頭部に触れる(そう見える)金光瑶の姿は、
サロメのようにも聖母のようにも感じられて、
怖ろしいほどだった。
愛も憎しみも捩れている。


孟瑶が聂家に居た時、聂明玦は自分に向ける孟瑶の慕情に
気づいていた筈だ。
孟瑶の持つ魔性、毒性にもおそらく気づいていたのだろう。
だからこそあえて節度を持って接していたろうと思う。
もしも聂明玦が孟瑶の気持ちを受け入れてやっていたら、
何かが変わっていたのだろうか。
金光瑶と聂明玦、
考えれば考えるほど切なく苦しい。

 

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