曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

聶明玦と金光瑶、二人の棺

ドラマ「陳情令」金光瑶の最期は、
「聶明玦、私があなたを怖れると思うか。」と
意を決して、棺へと走り込む場面でした。
その先、金光瑶がどのように絶命したのかと考える時、
あり得ないことかもしれませんが、阿瑶は、
頭と手足、胴体を縫い付けられた聶明玦の胸に、身を横たえ、
ふっと微笑みながら息絶えたように、私には感じられるのです。
左腕を切り落とされ、胸に朔月を突き刺されて壮絶な痛みの中であっても、
藍曦臣が一旦は、自分との死を受け入れたというその一点で、
そして自分は、曦臣を死へは引き入れずに済んだというその決断で、
阿瑶は、救いを得られていたと思うのです。
だから、あれ程怖れていた聶明玦へ立ち向かう勇気が得られた、
私は、そう思います。
阿瑶の聶明玦への気持ち、それは妄執と言っていい程の、
凄まじい愛憎だった筈です。
かつては、純粋な尊敬と信頼と慕情(私はそれが父とも兄とも慕う愛情
だったと思うのです)が、聶家の総領殺しの一件以降、
阿瑶は、明玦に許されなかった事を、受け入れられなかった事を、
落胆し己の情を否定されたように感じ、
恨むようになっていったのだろうと思うのです。
阿瑶は、戦功を立て義兄弟の契りを結ぶまでになりましたが、
少しの悪も赦せぬ聶明玦にとっては、孟瑶(金光瑶)は、
善へ導くべき人間だと捉えていました。
それでも最後まで明玦は、阿瑶が自分に牙を剝くとは、
思っていませんでした。
彼は、自分が阿瑶を更生出来ると信じ込んでいました。
それも彼なりの愛情だった筈です。
けれど阿瑶は、その愛に気づきませんでした。
阿瑶は、母からの愛情を確かに受け取った筈だけれど
確かに阿瑶は、最後まで母を愛したけれど、
この母子の愛には、どこか歪な影がありました。
阿瑶は、自分自身を愛せなかった人間だったのだと、私は思うのです。
だから、阿瑶は、聶明玦の愛を感じ取れなかった。
愛と執着の違いが判らなかった。
もしかしたら阿瑶は、聶明玦の本当の肉親である聶懐桑への想いと
同等かそれ以上の愛情さえも望んでしまったのかもと思います。
それだからこそ阿瑶は、思うように与えてくれない明玦を
憎むように為ったのかもしれない。
異常に執着したのかも知れない。
そして阿瑶の藍曦臣への想いも阿瑶は、
それを愛とは認識出来ていなかったのではと、思うのです。
「霧のかかったような世界で唯一の白月光」
本人が思う純粋な尊敬の情は、紛れもなく何物にも代えがたい
愛情だったでしょうに、阿瑶は、自分自身にさえ、
それを愛と認めなかった。曦臣にその想いを告げようとさえしなかった。
曦臣は曦臣で、愛という感情が己にある事さえ知らなかった。
この三人の間の愛は、とことん不毛です。


けれど私は、観音廟事件の最終場面で、この三人に一つのフィナーレが
訪れたと思うのです。
現実には、刀霊の呪いに侵され悪鬼と化した聶明玦と覇下、
それに対抗しなければならない阿瑶の霊識は、余りにか弱く、
想像を絶する地獄が待ち受けるのでしょう。
痛み苦しみそれを阿瑶は、粛々と受け入れるのだと思うのです。
かつてあれ程愛し憎んだ明玦を阿瑶は、赦しそして
身をゆだねるのではないでしょうか。
肉体が滅んだとしても阿瑶が流す涙がやがて、
明快を蝕む悪鬼を鎮める事が出来るのではないでしょうか。
その時、二人に安らぎが訪れるのです。
私は、そう信じています。