曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

他究竟想怎样呢

光瑶の最期を考える時、藍曦臣の「…他究竟想怎样呢」の言葉に尽きると思う。
もう逃げ場が無いと悟った時、もう自分には、死しか残されていないと悟った時、
阿瑶には何が視えていたのだろう。
生涯唯一の「白月光」たる無条件で敬愛する藍曦臣の手に掛かって死ぬことを
本望と思えてもいただろう。
死への恐怖はどれ程のものだったろう。
あれほど怖れ嫌悪し、かつその愛を求め続けた聂明玦と
共に封じられる事を予感し、藍曦臣を道連れにして、
聂明玦から守って貰いたいと望んだのではないだろうか。
かつて不夜天で聂明玦の刃から藍曦臣に庇って貰ったように。
どんなに望んでも、父光善からの愛を得られなかった阿瑶が
聂明玦に父性を求めたように、悪と汚辱に塗れた己であっても、
ただひたすら受け入れ包む込んでくれるそのような母の愛を
藍曦臣に求めたのではなかろうか。
極限状態の阿瑶にとっては、それらが異性への愛なのか、どうなのか、
もう判らなくなってしまっていたのではなかろうか。
「一緒に死にましょう。」
受け入れられるか、拒絶されるかのギリギリの問い掛け。
私は、あの場面の阿瑶の産毛が総毛立っているのを見て戦慄した。
最初、何故お顔剃りしなかったのかと訝ったのだけれど、
あれこそが激情の現れなのだと思い直してから、
大好きな場面になった。
阿瑶が朔月に貫かれた後の、阿瑶、二哥の二人の状況は、
正しく交合としか思えない。
情と情が激しくぶつかり、絡み、互いに翻弄され、
爆発する。エロスの極みだ。

藍曦臣が死を受け入れ瞼を閉じ、振り上げた手をそっと
指を閉じた時、彼は、その感情が、同情なのか、
阿瑶の罪に気づかなかった己の罪の意識か、
阿瑶への愛なのか、判ってはいなかったと思う。
それでも阿瑶は、その藍曦臣の選択だけで充分だったのだろう。
拒絶されなかった。阿瑶の求めた愛ではないかもしれないが、
確かに自分は、受け入れられた。
そして、このまま道連れにするよりも突き放すことで自分は、
永遠に藍曦臣の中で永遠になれる、そういう残酷で哀しい
打算も働いたのだろう。
人を恨み憎み己を恨み憎み続けて、そうやって生きるしか無かった
阿瑶が、最後に束の間愛を手に掴み、直後その愛は、指をすり抜けてしまう。
いや、道連れにしなかったからこそ愛を得られたのだろうか。
阿瑶は、忘機に支えられ脱出していく曦臣を見送り、
自らの運命に決着を着ける為、「聂明玦」に向き直る。
「聂明玦、私があなたを恐れると思うか!」
本当は、怖くて怖くて堪らなかった。
けれど敢えて自らを鼓舞するため、そして藍曦臣に受け入れられて、
立ち向かう気力を得られて、ああ叫んだのだと思う。
原作では、聂明玦の棺に突き刺さったという描写があるけれど、
最期の瞬間、阿瑶は、聂明玦と共に封印され、
未来永劫抜け出すことは叶わないと悟っていた筈だ。
生涯怖れ憎み愛し求め続けた人に、今は覇下の呪いに侵され、
愛と憎悪で正気を喪っている人に、これから先棺の中で、
霊魂になり果てた自分は、抗って行かねばならぬ、
それはどれ程の恐怖だろう。
けれど、阿瑶は、それを選んだ。
残されたのは、呆然と石段に座り込む放心状態の藍曦臣。
痛ましい姿だ。
そして、本懐を遂げた筈が複雑な感慨を覚えているらしい聶懐桑。
この人が光瑶へ抱いた愛憎も過酷なものだったろう。
埃に塗れた金光瑶の帽子を拾い上げ、そこにかつての孟瑶と母孟詩との、
「君子正衣冠」の教えが映し出されるのが本当に切ない。
善も悪も愛も憎も、全てがただ表裏一体。

(投稿 20/05/28)