曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

唄を忘れたカナリヤ〈金糸雀〉

青蘅君にとって藍曦臣と藍忘機の母親となった女性は、

運命の人だったろうが、一方的な恋だった。
挙げ句彼女は彼の師を殺して罪人となり青蘅君は、

命を救う為に結婚して閉じ込め、彼本人も閉関した。
藍夫人が子供達に会えるのは月一度だけ。
彼女の死について病気だったという描写もなく

唐突に子供達との面会が無くなった風だった。
自殺だったのではとすら疑ってしまう。
金光瑤の悪行が明らかになって藍曦臣が魏嬰と雲深不知処で語り合ったあの夜、

曦臣は、両親の事情を「知りたくない」と答えた。
曦臣の幼心に両親の姿は、どのように映っていたのだろう。
わずか二歳差ながら、母親の部屋の前でひたすら待ち続ける弟を

ただじっと見守る兄は、どのような心境だったのだろう。
自分の悲しみを表に出すことも出来ずに。

この藍夫人のことを考えると私は、どうしても阿瑤を思わずにいられない。
もし、観音廟事件で阿瑤が生き延びることが出来ていたら、
そして曦臣が阿瑤を雲深不知処へ連れ帰ることが出来ていたら、
曦臣は、阿瑤を一生隠すのだろうか。
処刑を免れる為に阿瑤と結婚し、藍夫人とするのだろうか。
命を長らえ、愛する人と共に暮らす。穏やかだけれど隔絶された世界で。
それを幸せと呼べるのだろうか。

私は、もしそれが可能だとして、曦臣にとっては、

金光瑤の命を奪わなかったという点においては、願いが叶うだろうが、

己の信義に背いた、藍の掟に背いた大きな罪に苦しめられ続けるだろう。
そして阿瑤も、生涯を賭けて社会的に認められることを追い求めた人間にとって、
仙督となって思う存分、政治的手腕を駆使した人間にとって、
社会から隔絶された、ただ曦臣一人のために生きる、

それは、決して出ることの出来ぬ鳥籠のような虚しい牢獄と映るのでは、なかろうか。
きっと阿瑤は、曦臣の前で微笑みを浮かべるだろう。
けれどそれは、曦臣に悪を知られる前の心からの笑みではない。
曦臣も判っているだろう。

阿瑤と曦臣には、幸せになって欲しいのだけれど、雲深不知処へ匿うにしても、
東瀛への逃亡にしても難しいだろう。
やはり、金光瑤は、観音廟で死ぬしかないのだろう。

阿瑤と曦臣の幸せは、現世では、無理のようだ。
来世に期待するしか無い。

 

唄を忘れたカナリヤ〈金糸雀

凄い歌詞です。
唄わなくなったカナリヤは、もう価値がないものとしてうち捨てられる。
ぶたれて山に捨てられ埋められ小舟に流され。
悪事を一杯したけれど貧困な弱者も救った阿瑤の功績は、

全て無かったものになるのだろう。
藍曦臣に認められて聂明玦と同じ棺に入れられる阿瑤は、

まだ救われるのではないかとさえ思えます。

 

金糸雀(かなりや)」
西條八十作詞・成田為三作曲

 

 歌を忘れたカナリアは後ろの山に棄てましょか
 いえいえ それはかわいそう
 歌を忘れたカナリアは背戸の小薮に埋けましょか
 いえいえ それはなりませぬ
 歌を忘れたカナリアは柳の鞭でぶちましょか
 いえいえ それはかわいそう
 歌を忘れたカナリア象牙の舟に銀のかい
 月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す