曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

「金如松」について


「陳情令」「魔道祖師」の世界で金光瑶が犯した最大の悪は、
父光善殺害と義兄である聶明玦謀殺であろう。
けれど私は、個人的に金光瑶の最も大きな罪は、我が子「阿松」殺しだと思っている。
正式な名を「金如松」。
金凌が生まれる前に魏嬰から「如蘭」と名付けられていたように。
次世代の「如」を貰って生まれた子だ。
阿瑶は、異母妹秦愫との間に生まれた阿松が成長するにつけ
近親相姦の顕著な証が顕わに為ることを恐れその存在を抹殺したのだ。
聶明玦と光善の殺害については、阿瑶がそこに追い込まれたそれぞれの状況を
理解出来るし、その心情も考慮することが出来る。
けれど何の罪も無い我が子を死に至らしめるなんて、決して許されることでは無い。
私は、阿瑶が直接手を下したのではなく、見張り櫓建設に反対する一族を根絶やしに
する為だった、その一族が企てた妨害行動に阿松殺害を巧妙に仕掛け、
あえて見て見ぬ振りをしたのでは、と思っている。
自己保身の為に我が子を殺す。
けれど阿瑶が真に卑劣で冷酷な人間ならば、異母妹秦愫が身籠ったと知った時点で、
堕胎させたのではなかろうか。
遠ざけたのではなかろうか。
完璧を期すならば、秦愫自身の命を奪ったのではなかろうか。
けれど阿瑶はたとえ二度とその身体に触れようとはせずとも、秦愫を傍らに置き、
細やかに慈しみ続けた。側室を迎える事も無く。
阿瑶は秦愫に告げる。

『阿松は、たとえ他人が殺めなくても死ななければならなかった。
・・・・・・死ぬしかなかったんだ』

阿瑶は、自分を守ると同時に秦愫を守りたかったのだ。
そして「娼妓の子」と出生を差別迫害され続けてきた我が身を思い、
阿松のこれからの生の苦難を思い、
(それだからこそ我が子の生きる自由を決して奪ってはいけなかった筈なのに)、
阿松をまるで己の所有物であるかのように「生」を否定するのだ。
父光善に認められ愛される事をあれ程までに切望し続けた自分が、
無条件で愛してくれたであろう我が子「阿松」を抹殺する。
真相を知った秦愫は、ついに自ら命を絶つ。
阿瑶の生涯で最も身近で愛を捧げてくれたであろう妻と子、
二人の命を阿瑶は奪ってしまうのだ。
生まれついて後、「居場所」「安全な基盤」を求め続けたであろう、
「家庭」という宝を自らの手で壊す。
私は、阿瑶が阿松の存在を消す決意をした時、
阿瑶は決定的に壊れたのだと思っている。
生涯夥しい数の人を殺めたであろう阿瑶だけれど、
我が子阿松を死に追いやりその死を権力に利用した時、
彼は完全に闇に堕ちたと思っている。

私は、阿瑶の「阿松殺し」を悲恋の題材にしたいとは思わない。
醜悪で痛ましい事件だと思っている。
けれどそうせざるを得ないと思い込んだ阿瑶が憐れで哀しい。