曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

藍曦臣は何故死のうとしたのか

藍曦臣は、何故あの時金光瑶と共に死のうとしたのか。
阿瑶は、胸の朔月を深々と差し込み、聶明玦の棺に血を垂らし、
封印を破って死を覚悟した場面だったのです。
そこで阿瑶は、藍曦臣に「一緒に死んで下さい。」と言った。
人生最後の最期に、今まで封じ込めてきた愛の告白をしたのです。

「私の罪の全てを知っても、あなたは私を受け入れて下さいますか。」
「私には、あなたが必要なのです。あなたを愛しています。」と。
叶えられない望みと知りつつ、阿瑶は、
最後に縋ってみたかったのだと思います。
曦臣は、驚きつつも、ゆっくり目をつむり受け入れた。
宗主の地位も責務も全て打ち捨てようとした。
それは、阿瑶への哀れみからなのか。
阿瑶の悪を見過ごしてきた己の罪から逃げる為なのか。
いいえ、曦臣は、阿瑶を受け入れたからこそ、
共に死ぬことを決意したのだと私は、思います。
だからこそ、曦臣の表情をしばし見極めて、花が綻ぶかの如く、
柔らかな笑みを浮かべて、阿瑶は、曦臣を突き放したのだと、
私は、考えます。
突き放されて驚き阿瑶に手を伸ばす曦臣が藍忘機に抱き留められ、
崩れ落ちる本堂から脱出していく様子を見守る阿瑶の表情は、
愛に満ちていたと思います。
死にゆく阿瑶は、もう誰も恨んでなどいない、
曦臣に満たされ救われたのだという達成感さえ
感じられる姿だったと思うのですが、
肝心の曦臣は、あまりの激情の爆発の所為か、廟の崩壊の所為か、
見えていなかったのでしょう。
だからこそ「阿瑶がわからない。」との発言になるのでしょう。
「阿瑶の悪を知らぬわけでは無かった。」
この悪とは、金氏による温家残党への弾圧、虐殺。
陰虎符収集や傀儡化実験などだと思います。
金光善殺害や異母妹との結婚などでは無かった。
ましてや聶明玦殺害に阿瑶が自分を巻き込んでいたなど知る由もなかった。
怖ろしい罪を数々積み重ねた阿瑶を決して許すわけにはいかない。
重い処罰を下さねばならない。
命ばかりは奪いたくない。生きる道を与えてやりたい。
曦臣は、そう願っていた筈だ。
けれど、「どれだけ悪をなそうともあなたを傷つけようとは思わなかった。」
阿瑶の唯一の真実を曦臣は、信じてやれなかった。
聶懐桑に諮られて、阿瑶に止めを刺してしまった。
曦臣に残ったその後悔の念が曦臣の目を曇らせるのでしょう。
「あなたは、阿瑶を救ったのですよ。」
「あなたが生きることを阿瑶は、望んだのですよ。」
曦臣が阿瑶の真実に早く気づいてくれることを祈ります。

若くして宗主の重圧を担い、両親をめぐる複雑な環境から、
己の感情さえ抑制してきた愛の意味さえ知らずに生きてきた曦臣が、
生涯初めて、全てを投げ打ってまで、手にしようとした対象、
決して許される存在では無かったその人は、
愛を実感した直後に、指をすり抜けて消えてしまったけれど、
その愛の一瞬の輝きは、途方もなく眩く美しかったのだと思います。
曦臣がその喪失の大きさと痛みを受容し、
亡くなった者も生きる者も傷ついた者も傷つけた者も
全てを赦せる時が来ることを祈ります。(投稿 6月24日)


追記(6月26日)
ふと、シャアの「ララァは、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ。」

発言を思い出しました。
ありえない妄想かもしれませんが、藍曦臣は、阿瑶に
「母なるもの」を求めていたのではないでしょうか。
自分を丸ごと無条件で受け止め、包み込んでくれる「聖女」

とも言うべき存在を求めていたのかも知れません。
曦臣にとっての阿瑶は、必要以上に美化して、
決して対等に生身でぶつかろうとはしなかった存在だったのでは

なかろうかと思います。
今まで私は、阿瑶が曦臣に母性を求めていたのだと感じていたけれど、
それは相手も同じで、曦臣の方も互いに相手に理想を求めた
相互依存めいた関係だったのかなあと思うようになりました。
何故か阿瑶と曦臣の最期の場面、
(突き放す前の瞬間)血まみれの阿瑶が胸に曦臣の頭を
そっと抱いていたかのように感じるのです。
あの時曦臣が固く目を瞑っていなかったならば、
あの阿瑶の微笑みを目にしていたならば、
阿瑶の慈愛を、全てを赦す愛を感じ取れていた筈だと思うのです。
阿瑶は、曦臣から愛を奪って独り逝ってしまった残酷な人という見方を
していた時もありましたが、今の私は、阿瑶は、最後に赦す愛を手に入れた、
曦臣にもその愛を伝えたかったのだと思うようになりました。

とことん阿瑶に甘い人間の浅はかな考えでしょうが、
曦臣には、救われて欲しいのです。
長い一生を閉ざして生きて欲しくはありません。
悔やむのではなく恨むのでもなくただそこには居ない人を
ただ想って欲しい。光の中を生きて欲しいです。