曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

藍曦臣の涙

ドラマ第五十話、藍曦臣が金光瑶の胸に朔月を突き刺してしまった後、
阿瑶は、最初に聶懐桑が長年己を欺き復讐の計画を練り続けてきた事を、
ようやく知って聶懐桑を詰りますが、その後は、藍曦臣に向かって、
自分は、長年あなたに尽くしてきたじゃないか、何の見返りも
求めなかったじゃないかと、まるで聞き分けの無い幼子のように、
言い募ります。
この時藍曦臣は、何も言い返す事も出来ず、ただ頬に涙が伝います。
「聶明玦と同じであなたも私を許さない。命さえ残しては下さらないのか。」
そう朔月を掴んで自ら傷を抉りながら叫ぶ阿瑶を見つめ、
ただ涙を流し続ける事しか出来なかった曦臣。
阿瑶との最期、そして階段で懐桑と語り合う場面でも、
曦臣の顔には、涙の雫がありました。
藍曦臣という人は、それまであんなに涙を流した事は、
無かったのではないでしょうか。
本人は、その自覚を持ち合わせていなかったように感じますが、
曦臣は、常に感情を抑制していたように思います。
それが、観音廟で金光瑶によって、己の奥底に秘めていた
感情を顕わにされてしまった。
枷を解かれた。
だから、金光瑶を喪った直後の放心状態を過ぎると、
猛烈な悲しみ、痛みが曦臣を襲うのだと思います。
雲深不知処の自室寒室に籠り、悲しみに暮れるのではないでしょうか。
とめどない涙を流しながら。
けれどそれは、必要な事なのです。


金子大栄師の言葉
『悲しみは悲しみを知る悲しみに救われ、
涙は涙にそがれる涙にたすけらる』

泣くことは決して後ろ向きではありません。
「泣く」の漢字はサンズイに立つと書きます。
泣いて泣きつくして立ち上がっていくのです。
「涙」もサンズイに戻ると書きます。
涙を流してあるべき自分に戻っていくのでしょう。(細川淳栄)


藍曦臣も涙を流しつくして、泣きつくしてやがて立ち上がる日がくるのだと思います。
藍宗主の責務を放棄することなく、現実に立ち向かう時が来るのです。
曦臣は、自己崩壊を起こすほど弱い人間ではありえません。
藍氏を存続させる為に妻帯し子を望むでしょう。
世間体の為ではなく妻も子も心から慈しむでしょう。
どうしようもない空洞を抱えつつ、胸の奥底で阿瑶を想いながらも、
夫として父として家族を愛し、叔父や弟夫夫を愛し、
藍氏門下を慈しみ、そうして長い人生を送っていくのだと思います。
藍曦臣は、それらを完遂できる強く誇り高い人だと私は、思います。
そうしてそれこそが、阿瑶の願いだったろうと思うのです。